宝塚歌劇団では出番により早変わりというのがあります。
ショーなどでは多く、トップ級でなくとも衣装チェンジをしてでなければならないことがあります。
舞台からはけて衣装を着替え、次の出番までわずか30~45秒というときがありました。
舞台袖には衣装部屋とは別に、上下(かみ・しもとよびます)に着替える場所があり、さらに舞台袖すぐのところに超早変わりスペースがあります。
このスペースはほぼトップさんが使用されますが、場合によっては下級生が使用させていただくこともあります。
下級生のほうがちょい役がいっぱいで忙しかったりすることもあるのです。
少しの無駄も許されない瞬間
出番前に最短の距離で着替えられるようにセッティングを行います。
一秒たりとも無駄な動きにならないように広げているため、他の出演者のものを絶対に動かしてはいけません。
舞台上だけではなく袖でも緊張感をもって移動します。
娘役の衣装はだいたいが後ろがファスナーになっていてしゅっと上げたらすぐに着られるようになっています。
これがたまに噛んでしまうことがありますが、そうなると大変です。
瞬時にファスナーをかまずに上げる方法も経験から取得しました。
私は在団中、トップさんについてお手伝いをさせていただいていましたが、超早変わりを手伝うにあたり衣装部さんと手順を確認します。
もちろん舞台稽古や通し舞台稽古でトップさんと打ち合わせをしながら効率のよい方法を見つけていきます。
※シーンごとにを止めて確認を行う舞台稽古と、本番と同じように通す舞台稽古の二種類があります
トップさんは組の人気を揺るがす存在で責任重大です。
ファンの方も組の中で一番多いわけですからお客様の入りも気になるところです。
作品によっても客足が違いますが当然満席でチケットが取れないという舞台が理想です。
初日はほぼチケットは完売なことが多いのですが、この舞台を一か月半になっていく重圧もあるのでしょう、ある公演の初日で今まで打ち合わせした手順とことごとく違うことをしようとされました。
いつもと違う!!
と思い、いつもなら上級生には絶対服従ですが、この早変わりは失敗するわけにはいきません。
「それまだです!こっちが先です」
といって上級生が持たれていたものを奪い、いつもの手順に誘導したのでした。
後程その上級生に手順を再度確認しましたが、違った手順をした記憶がご本人になくその時の私の判断は正しかったのだと胸をなでおろしました。
そのぐらいプレッシャーの中で舞台をされている上級生の姿を見て下級生はあらためて上級生を尊敬し、自分を律するいい機会になります。
華やかな世界で人よりライトをたくさん浴びている分、プレッシャーや見えないストレスがたくさんのしかかっているのです。
極度のプレッシャーとストレス・緊張のなかで毎日休むこともなくステージに立つ。
逃げ出したい状況でも決して逃げることができない状態で鍛えられた精神力があるのですから、それを思えばしんどいことなんて世の中にないのかもしれないなと思う今日この頃です。
絶対に成功させてしまう力を持ち合わせているタカラジェンヌ
舞台稽古で早変わりに間に合わず、通し稽古でも間に合わず、本番を迎えることがあります。
本当に気が抜けない、間に合わない、どうしよう・・・
必死で考えますが、もうあと数時間で本番です。
そしてその早変わりのタイミングはやってきます。
ところがタカラジェンヌはどんなに間に合わない早変わりでも、最終的に本番では絶対に間に合ってしまいます。
早変わりができず間に合わないという光景を見たことがありません。
しかも公演中に余裕すらできてくる場合もあります。
何度もやっている間に、コツがつかめたり無駄を省いたりしているのでしょう。
ここで学んだのは、
何としても成功させること
成功させるために考えて、考えて、考え抜くこと
あきらめないこと(絶対にあきらめることができない)
そしてこれが成功体験となり、次に早変わりが来た時には“できる”という思考が頭にあるので必ずできるのです。
上級生は何度も早変わりの経験者ですから、下級生の早変わりを手伝ってくださいますしコツも教えてくださいます。
このことから、人生でできないことってないんだな・・・とふっと思ったことがあります。
急いでいるときほど冷静になること
例えばどんなに急いでいても衣装のファスナーだけは真っ先に行なわないと舞台に出られません。
ファスナーを下げてもらうまで待つ
ファスナーを上げてもらうまで待つ
ちょっとの時間も“待つ”暇がない早変わりですが、ここだけはポイントです。
急いでいるときほど冷静にならなければならない
本人がパニックになってしまっては何もできなくなるからです。
これも学んだことのひとつです。
よく間に合うか泣きそうになりながら早変わりをしていると
大丈夫!大丈夫!絶対間に合うからね!
と暗示をかけるように上級生が声をかけてくれました。早変わりが終わると必ず
行ってきます!
というのが習わしになっていました。
脱ぎ散らかした衣装を次のシーンまでに片づけなくてはならず、衣装部さんが片づけてくださいます。
衣装部さんの力なしではできません。
こうやって一つの舞台を作り上げるのには全員の協力なくてはできないのです。本当に毎日感謝するしかありませんでした。
こういった経験があるので、逆の立場になったときに必ず助けるようになります。
人のことを羨んだり、人を蹴落とそうなんで考える暇、実は舞台においてはないのです。
自分ではなくて、なぜあの人が選ばれるのか?
タカラジェンヌでそんな思いを持ったことがない人はいないのではないでしょうか。
人を羨んだりねたんだり、全くないかと言えばそれは嘘になると思います。
でも、一つの舞台を作り上げるという目的が同じなので、心を一つにして最終的にはやはり「清く 正しく 美しく」精神をコントロールするのだと思います。
まとめ
さて、今日は早変わりの話をしました。
とってもコアな話にお付き合いくださりありがとうございました。
絶体絶命というときでもどこかに助け船や一縷の望みがあったりします。
あきらめず徹底的に方法を探すこと、これは会社経営者ならだれもが経験していることだと思います。
そしてその時に助けていただいた御恩を忘れず感謝する。
これが大切です。
私も親を含めいろんな方に助けていただきました。
あらためて感謝するということの大切さを感じています。
「無理」ということばは何も生みません。
ネガティヴワードは辞書から外してしまいましょう。
それではまた次のブログで。